陪審員の皆さん 世の中で最高の友人だと思っていた人が、自分に牙を向き、敵になることがあります。
たくさんの愛情を持って育ててきた息子や娘が、親に対して不義理を働くことがあります。 厚い信頼を抱いていた一番近くにいる最愛の人が、裏切り者になることもあります。
それまで大事に持っていたお金だって、一番必要なときに限って、人の手から離れていきます。 それまで保ってきた名声だって、ちょっとした軽はずみな行動で失われることがあります。 成功しているときには、膝まづいて栄誉を称えてくれていた人が、失敗するや否や、真っ先に悪意のこもった石を投げつけてくることがあります。
さて、この欲にまみれた世界において完全に無私無欲で、決して人を見捨てず、決して恩知らずな行動を示さない唯一の友人がいます。それは犬です。
陪審員の皆さん
栄えているときも貧しいときも、健康なときも病めるときも、犬は常に傍らにいてくれます。
犬は、主人のそばにいることができるのならば、冷たい地面の上で寝ることだって厭(いと)わないし、冷たい冬の風に吹かれたり、激しく吹きつける吹雪に晒されることにだって耐えてくれます。
犬は、たとえエサを持っていなくてもその手にキスをしてくれますし、世知辛い世の中でできた傷口を舐めてくれます。 主人がたとえ貧しくても、眠っている間は、まるで王子様を守るように見張りに付いてくれます。 友人が誰一人いなくなっても、犬だけはそばにいてくれます。
富が消え去り、名声が地に落ちても、まるで天空をめぐる太陽のように常に一定なのは、犬の愛なのです。
もし命運が主人を見放し、友人も家もない打ち捨てられた人間のようになったとしても、忠実な犬が唯一望むものは、命が尽きるまで主人のそばに付き添い、彼を危険や敵から守ることなのです。
そのうち死が主人を優しく抱擁し、今わの際がやってきて、冷たい地面に横たえられる時が来ます。
他の全ての友人は目をそらし、その場を立ち去るかもしれません。
しかし、彼の墓の横には常に、高貴な犬の姿があることでしょう。
頭を足の間に置き、悲しみと同時に用心深さをたたえた目を大きく見開いて。
死者に対してさえも忠実なもの、それが犬なのです。